「痛い!」 「何処が?」


 今回は痛みについて少しお話致します。
誰にでも「痛くて痛くて参った」という経験があると思います。また、なんとなく痛いと感じる程度の物を含めると、必ず思い当たるはずです。さてこの「痛み」を治療する時、大抵の場合、まず「痛みの状態」を医師へと伝えなければなりません。この際、何処が・いつから・どんな時に・どれ位・どの様に痛むのか?これが重要なのですが、これを的確に表現するのは本当に難しいことです。痛みが強く、鋭い場合にはその痛みの場所を伝えることは比較的やさしいのですが、なんとなく、ぼんやりと、でも確実に痛みを感じる場合などは困ったものです。上の歯なのか下の歯なのかすらハッキリしなかったり、指で示そうと思うと自信がなくなったりします。そんな経験ありませんか?さらに、この種の痛みが、長い間続くと憂鬱で厄介なものです。何故うまく伝えられないのでしょうか?手や足が痛いときには、その場所はすぐわかりますよね。右手の親指が痛いと思って医者に行ったら、悪いのは人差し指だったなんて話は聞きませんね。
 これには、色々な理由が考えられます。
@ 口の中の構造は細かく複雑(神経や骨や筋肉)。
A 狭い場所に沢山の歯がある。
B 痛くなるのは、歯だけじゃない。(関節や筋肉や舌など)
C 自分で口の中を確認しづらい。
そうです。口の中や周りの構造がとても複雑な上に、患者さんが歯だと思っていた痛みの原因が実は歯ではない可能性もあるのです。これじゃ、どこが痛いのかわからなくても仕方ない気もしますね。
 では、例えを上げてみましょう。仮にあなた自身の、上の奥から二番目の歯あたりに痛みがあるものとします。
 まず可能性が高いのは、ムシ歯と歯周病(ししゅうびょう)です。これは患者さんも「そうだと思った。」なんて安心したりします。妙なものです。病気だと言われたのに自分の思ったとおりだと安心するんですね。ではそれ以外の可能性はないでしょうか。
 上顎洞炎(じょうがくどうえん)があります。上顎洞とは、上あごの骨の中にある空洞で、ちょうど奥から二番目と三番目の歯の上にあります。そこが炎症を起こすと歯が痛んだように感じることが有ります。
他にもまだあります。あなたは強く歯ぎしりをしていませんか?歯ぎしりが強いと歯が痛むことがあります。
 それから、咬筋(こうきん)と言う筋肉が痛んでいる可能性も有ります。この筋肉は、噛み締めるときに使う筋肉で、ちょうど奥歯のあたりに付いています。鈍い痛みのことが多いようです。
 さらに、顎の関節が痛んでいるかもしれません。顎の関節は、耳の穴の少し前に付いていて、そこを中心に回転したり滑ったりして顎を動かしています。場所が近いので、患者さんが奥歯の痛みだと思い込んでしまうことがあります。
 まだまだ、三叉神経痛(さんさしんけいつう)というこことも考えられます。三叉神経は、上の歯と下の歯と眼の周りにつながっている神経です。この神経が病気に罹ると歯の周りが痛むことがあります。三叉神経痛は、電気が走ったような鋭い痛みが特徴ですが、この病気になりかけの時の症状は、ヒリヒリ感、鈍い痛み、針で刺すような痛みがでます。
 次は、またしても筋肉です。側頭筋(そくとうきん)が病んでいるのかもしれません。側頭筋も噛む時に使う筋肉ですが、場所は頭の横に付いています。奥歯とは離れた場所ですが、関連痛という種類の痛みで遠く離れたところに痛みを感じることがあるのです。
頭痛と一緒に歯が痛むことが多いようです。そろそろ、疲れてきたので最後にします。
 近くに抜いた歯があるなら、その抜いたところが痛んでいるということも考えられます。抜いたところが治っていないのではありません。治っていても痛むのです。不思議ですねぇ。求心路遮断痛(きゅうしんろしゃだんつう)と言う種類の痛みがありまして、歯の無い治った所が痛むこともあるのです。どうも、神経の再生の過程で異常が起こるようですが、原因はいまだ不明です。
 これぐらいにしておきましょう。虫歯以外にも色々有るものだと感じていただけましたか? このような可能性の中から本当の原因を診断するのは、なかなか苦労の多いものです。レントゲン以外の検査が必要なこともあります。また、何よりも患者さんからの情報が大切です。
「何しろ痛いんだから何とかしてくれ!だってあなたは歯医者でしょ。」
→と言われても歯科医は、どこが痛いのかわかりません。
「ここだよ、ここ、この歯なんだよ。」
→本当にその歯でいいのですか?患者さんの思い込みではないですか?
だって、あんなに沢山の原因が考えられるのですから。
 これじゃダメですね。
 自分の大切な体のことですから、もっと具体的に伝えたほうがよさそうです。
 何処が・いつから・どんな時に・どれ位・どの様にこれが大切です。また、このような痛みと虫歯の痛みを鑑別できるのは、歯科医師だけです。患者と歯科医師、両者の協力があってこそ良い治療が可能だと言うことを覚えておいてください。